
いま、公立高校の入試制度が大きな転換点を迎えています。政府は「単願制」――すなわち受験生が一人一校しか出願できない現行制度――の見直しに着手し、「デジタル併願制度」の導入を本格的に検討しています。この制度は、受験生が複数の志望校を志望順位順に登録し、試験の結果に応じて最も上位の合格校に自動的に割り振られるという仕組みです。
大井川和彦知事は、4月25日の記者会見で「本県としても率先して取り組みたい」と表明され、導入に向けた前向きな姿勢が示されました。
この制度は、受験生にとって第一志望に挑戦しやすくなる一方で、滑り止めの選択も可能となるため、安心感をもって受験に臨める仕組みです。また、再募集や補欠合格といった複雑な手続きを省けることで、生徒・保護者・学校現場の負担も大幅に軽減されることが期待されます。
こうした制度が注目される背景には、県内における「入試倍率の格差」という深刻な課題があります。令和7年度の入試資料によれば、水戸第一高校が1.65倍、水戸桜ノ牧高校も1.25倍と高倍率である一方で、水戸桜ノ牧常北校は0.20倍、太田西山高校(普通科)では0.38倍、日立第二高校(普通科)は0.51倍と、大きく定員を割り込む状況が続いています。
こうした格差は、教育機会の地域的な偏在を生み出し、進学希望者の自由な選択を妨げる要因となっています。デジタル併願制度の導入は、こうした不均衡を是正し、生徒一人ひとりの進路希望に応じた柔軟な制度設計を実現するための一手になると私は考えております。
この課題は、私が3月18日の県議会予算特別委員会においても、特に重視して取り上げたテーマでもあります。
その際、私は、県立筑波高等学校および県立つくばサイエンス高等学校において、定員割れが常態化している問題を提起しました。特に、つくばサイエンス高校の科学技術科における令和6年度入試での志願倍率が0.58倍にとどまったことについて、「黙っていても生徒は集まらない」と厳しく指摘いたしました。
つくば市周辺では、県立の進学校に志願者が集中する傾向が顕著であり、その一方で、これらの学校が担う役割や魅力が十分に伝わっていない現状があります。私は、「このような学校を目指す生徒の受け皿となる存在が必要ではないか」と訴え、児童数が増加している地域の実情に即した形で、「2校の定員をしっかりと充足させる具体的な手法の構築が必要である」と強く求めました。
制度の見直しにあたっては、以下の課題と提案も併せて議論すべきと考えております。
第一に、「採点の公平性」の確保です。現在は各高校ごとに採点を行っているため、微細な違いが合否に影響を与える可能性があります。今後は、共通の採点マニュアルの整備や、複数校による横断的な採点体制の構築が必要です。
第二に、「試験内容の質」の維持です。形式の単純化によって、現在求められている探究的で表現力のある学力の評価が損なわれないよう、記述式や思考力を問う設問も取り入れた試験設計を目指すべきです。
第三に、制度設計に際しては、生徒・保護者・現場教員の声を丁寧に聴取する姿勢が不可欠です。制度は上から押しつけるものではなく、現場との対話を通じてともに築いていくべきものです。
未来を担う子どもたちの進路が、地域や制度によって左右されることのないように。誰もが安心してチャレンジできる、そんな入試制度を目指して、私は引き続き議会の場から提言を続けてまいります。